「真夜中に地震が」          ’01年4月4日


真夜中に地震が

 NHkの時代劇ドラマがちょうど終わったばかりで、真夜中の12時まであと数分という時でした。
 不意に家がグラン!と大きく揺れたのです。
 『あっ、地震だ!これはひどく揺れるかな?』などと考えている間にも家の揺れはグラグラと続いていましたが、揺れの大きさは急速に小さくなって行きました。
 じきに揺れはすっかりおさまり、何事も無かったようにあたりは静まっていました。
 棚の上から何かが落ちたわけでもなく、テーブルに乗っていたサイダーのペットボトルがひっくり返ったわけでもありませんでした。
 メリーは電気ピアノの上で、しし丸は和風テーブルの上で長々と横になったままぐっすりと寝続けていて、眼を開けた気配もありませんでした。
 まるで、地震など無かったというふうなのです。
 テレビのアナウンサーが緊張したようすで地震のニュースについてくり返し話していなければ、『さっきグラグラと揺れたのは、もしかしたら私がめまいを起こした為だったのかも知れない』と考えるところでした。
 やがて、妻と久美子がワラワラと2階から降りて来ました。
 「どうしたの?震源地はどこ?猫たちはみんなぶじだった?」と、妻はあわてたようすで言いました。
 「モコは2階にいたけど、メリーたちはどこ?何か落ちて来てぶつかったりしなかった?」と、妻はさらにたたみ込むように言いました。
 「メリーとしし丸はここで寝てるわよ。ユキはあたしの部屋で寝てるから」と、久美子が答えました。
 「それじゃミケとトラミは?」(妻)
 「ミケはさっき2階にいたけど、たぶんトラミは外に遊びに行ったままよ」(久美子)
 「あら、そう言えばモモの木がいやに揺れてる。これは地震のせいじゃないわよね」(妻)
 「トラミが登ったか降りたかしたばかりなんじゃない」(久美子)
 「トラミも地震でびっくりして帰って来たんでしょ。ほら、2階のベランダの辺でトラミの声がするわよ」(妻)
 「ああ、トラミだ。でも、トラミはあきらめが早いから、すぐに降りて来るわよ」(久美子)
 と、久美子が言ったとおりにモモの木の枝が大きく揺れて、トラミの黒い影がモモの木の幹を伝わって降りて来るのが見えました。
 「ああ、この騒ぎですっかり眼がさめてしまった」と、妻がひどく残念そうに言いました。
 「とにかくお茶でも飲もうか」と言って、久美子はお茶の支度を始めました。
 「ああ、そうだった。ブルーベリーのケーキを買って来てあったんだ」と、妻は突然思い出して言いました。
 「今から食べると太るもとになるよ。明日にしたら」(久美子)
 「そうね。もう少しやせる努力をしないとね」(妻)
 「ほら、ケーキを食べる話なんかするから、メリーが眼をさましちゃった」(久美子)
 ふり向くと、メリーが眼をキラキラ輝かせていました。
 こんなに夜おそい時間なのに、メリーは何か食べ物にありつけそうだと期待しているふうでした。
 メリーだけではありません。
 しし丸ものそのそと起きて久美子の足元まで来ると、どこからこんな声が出てくるのだと驚くほどにかわいい声で夜食をせがんんだのです。
 しし丸の声に誘われたようにモコとユキも階段を降りて来ました。
 地震ではまったく眼をさまさなかったメリーたちなのですが、夜食の魅力にはあっさりと眼をさましてしまったのでした。

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